昭和初期、宮内省にて取引されていた幻の赤ワイン「テンノーワイン」が日本に初上陸しました。製造者は、オーストリアのアイゼンシュタットで代々ワイナリーを営む、ルドルフ・カイザーさんと息子のクルトさん。芳醇な香りと力強い味は同国で絶賛され、2000年には品評会で最優秀の評価を得ています。
テンノーワインという名前の由来は、ルドルフさんの父シュテファンさんが太平洋戦争前に修道士として来日し、戦時中に造ったミサ用ワインが宮中行事に供されたことによります。ワインを醸造していた岐阜県多治見市の多治見修道院には「シュテファン氏の来日後、上質なワインが大量に作られた」との記録が残ります。当時の宮内省から頻繁に注文を受け、ドイツやイタリアの外交官らにも提供されました。
「天皇御一家にも供されたんじゃないかな」と帰郷したシュテファンさんは、家族に語ったといいます。シュテファンさんの死後、ルドルフさんは父の思いを胸にワイナリーの高級ワインをテンノーワインと命名。カイザーはドイツ語で「皇帝」を意味するため「これも何かの縁」とルドルフさんは言います。
現在、ワイナリーでは29ヘクタール(東京ドーム約6個分)のブドウ畑に年間約16万本のワインを生産し、このうち最高級の約8千本がテンノーワインとしてオーストリア、ドイツなど数カ国に限定出荷されています。激動の時代、ワインが紡いだ日本とオーストリアの縁。いまではその味わいを知る人がほとんどいなくなった幻の味をぜひご堪能ください。
オーストリアブルゲンラント(左) 岐阜県多治見市と多治見修道院(右)
オーストリア産のワインは、ドイツ産に似て白ワインが大きく割合を占めます。酒質もドイツ産によく似ていますが、オーストリアの方が一般にアルコール度数が高く、辛口で食事にも合いやすくなっています。また、貴腐ワインや甘口ワインも有名です。オーストリアは「世界一厳しいワイン法」をうたって厳格な品質管理を行い、 著しい品質向上を遂げています。
国土の西側半分は、アルプス山脈・山間部になるため、生産地は東端の4州(ニーダーエスタライヒ州、ブルンゲルラント州、ウィーン、シュタイヤーマルク州)に限られます。オーストリアのワイン生産地域は、フランスのブルゴーニュとほぼ同じ緯度にあり、大陸性気候に支配されるため、冬季の寒さは厳しいものの、夏季は暑くて乾き、日照時間が極めて長いのが特長です。