「長い散歩」作品紹介



インタビュー[聞き手:見聞録スタッフ]

奥田監督のインタビューをお聞き下さい。

インタビュー音声 Part1

見聞録:作品のテーマはいつも一貫して真実の 「愛」 がテーマですが何か特別な思いがあるのでしょうか?

奥田監督:現代が殺伐としている。人間の人と人との交流とか、思いやりとか、協調性等含めて情緒ですよね。情緒感が、とっても希薄になっている世の中になっていますよね、引きこもりとかオタクとか、不登校とかいろんな物が世の中にはびこっていますよね、虐待とかも。全般を見回すと何が足りない?根本的な愛情が足りないと思ったんです。その根本を誰がきっちり教えるかというと、おじいちゃんであったり、おばあちゃん、お父さんお母さん、そして近隣のおじさんやおばさんに、怒られながら教えられたりしますよね。そういう情緒感があって思春期を乗り越えて青春期に入って、恋に落ちて、恋愛をして そして家庭をもって、、、というプロセスがありましたよね、今までは。しかし今の世の中では、そのプロセスが崩壊してると思うんです。それは何故かというと核家族とか情報量の多様性や多さ、戸惑っている子供や大人が多いと思うんです。ある種悪い個人主義になりつつあるんじゃないかと思うんです。
人は、それぞれの情緒感を必ず持ってると思うんです。持っているのにそれを開けるカギ、キーを持たない。そのカギをプレゼントしたいと思うんです。映画と言う形で。そうすると、(映画を見る事で)今まで経験した事のない波動がバーッと来ると思うんです。そうすると意味不明に心が揺れると思うんですよ。それは多分嬉しい事だと思うんですね。映画を見て。そしてその波動は何か、というとそれは懐かしき、本来人が持たなきゃいけない情緒感なんですよね。そこには、真実をつらぬいてきた純粋な愛が根ざしているんですから、人の中には。それを開けてあげる。そういう物が自分の中に意識はありますよね。映画と言う手段を使って。

見聞録:再確認させるような?

奥田監督:再確認というか、発見ですよね。もともと、あるのに気づいてないのですから発見させてあげる、ということですよね。

見聞録:この真実の愛と、テーマを考えられたのはいつ頃からですか?

奥田監督:10年前位からじゃないでしょうかね。自分が監督になった時、そういう大人の愛や家族の愛でもそうですけど、真実の愛を追求するもの、ピストルとか機関銃とかではなく、人と人との心の奥底にあるものを探り当てるような映画が、自分には向いてると思った訳です。

見聞録:映画を作るにあたり、情景作りがあると思うのですが、どのようにお考えでしょうか?

奥田監督:背景は自分に置き換えた時にどういったものが作りたいか、小説家と同じですね、そういう意味では。
緒形拳さんで映画を撮りたかったら、何が緒形拳さんに向いてるだろう?何が緒形拳さんが喜ぶだろう?と。親が子供へクリスマスの日に、何をプレゼントしたら子供は喜ぶだろう?状況も背景も考えますよね,親としたら。それと同じですよね。映画も。



見聞録:この長い散歩を見る人に特に感じてほしいという事は今おっしゃったようなことでしょうか

奥田監督:そうですよね。人の扉を開けてあげるんだから。それ以上のものは無いんでしょうかね。だから見た後に思考して、うち震えながら思考する。そうすると何かが生まれるわけじゃないですか。人は考えないと何も生まれないですよね。今の子たちって考えない。物をどうやって創造していくってことにとっても希薄なのね。マニュアルを探っていると。まぁ、ゲームと一緒ですよね。ゲームなんてのはね、何千通りの答えがあってそれで遊ぶだけじゃないですか。創造するってことにはならない。ですよね。

見聞録:与えられた物をそのままやってくっていう、それだけのもので

奥田監督:答えが見つかっているのに、答えを知ろうとすることはダメなんですよ。答えが無い物に対して答えを探す、これが本来あるべき形態だと思うんですよ。だから成長があるんですよね。

見聞録:今回の映画の題材となっている幼児虐待とか子供の非行とか犯罪が多くなる一番の原因っていうのは、やはりテーマの部分の、、、

奥田監督:親です。親ですよね。親と学校教育。そういうもののメンタルケアがなされていないからじゃないでしょうか。親の背中を見て子供は育つものわけですから、親がひどい背中してたらいい子なんか育つ訳ないですよね。



見聞録:今回、東濃地方を撮影場所に選ばれた訳ですが、奥田監督から見て東濃地方は、どのように映ったのですか?

奥田監督:いい意味でも悪い意味でも、いろんな匂いが残っているということですね。
見残された部分ていうのか、昭和の中期の商店が残っていますよね。それは見残されている訳で、かといって新しい物がいいのか?と言ったら、そうではなくて。映画では、とってもホットな感じがするわけで、それが撮りたいと。映画にとって一番情緒的な風景が残っているというとこと、近隣には、ある種、真空地帯的な無機質な物もありますし、それは新興住宅地等ですよね。それは決して都市が望んでない形態を映画が利用するわけです。

見聞録:「少女」から今回で3作目ですが、ご自身の中で「愛」という考え方は撮るたびに、変化していくのでしょうか?

奥田監督:して行きますね、深くなりますね。人を見つめている訳ですから。人の真相を探り当てていくわけですから。それはやっぱり深くなっていきますよね。真剣勝負ですからね。

見聞録:「愛」という固有名詞がなかったら、監督はどのように「愛」を表現されますか?

奥田監督:「優しさ」と「思いやり」じゃないですか。
叱る事も優しさだし、ある意味殴ることも優しさである訳で、その優しさがなかったら、ただの暴力になってしまう訳で、勇気を持たなければいけないし。人に何をするにも、愛する事にも勇気がいるし、怒る事にも勇気がいる、全て勇気がいるんじゃないですか?ちゃらんぽらんは駄目っていうことですよね。

見聞録:映画の撮影の中で、とても楽しかった事、苦労したことは?

奥田監督:全てが楽しいですよ、苦労はないですね、一つも。映画を作っていての苦労は、雨が降って撮影が出来ない位で、後はないですね。

見聞録:奥田監督の一番の居場所は、ご家族と一緒にいて素の自分を出される時か、映画を撮っている時か、あえて選択するとしたらどちらですか?

奥田監督:一番は映画ですね。二番が家族ですね。

見聞録:何故、俳優になりたいと思ったのですか?

奥田監督:ただ有名になりたかっただけです。それから進化していく訳ですが。それだけです。


インタビュー音声 Part2

見聞録:今回映画に関わるスタッフは合計50名以上という事ですが、キャスト以外の裏方さんへの映画製作の一員である事の認識のさせ方、監督の思いの刷り込み方等について、伝え方や工夫などはありますか?

奥田監督:ありますね、やっぱり。それは重要なことですね、まずは、いい作品である事。それが第一前提、全てにおいて決断力を瞬時に行っていくこと。
それが間違っていようが、正しかろうが、そうしないと現場が進んで行かないですよね。それと思いやりですよね。
俳優さんにしてもそうだし、スタッフにしてもそう。思いやりの心ですよね、でもたまに怒鳴っている時もありますよ。でもそれも瞬間にそうなるだけで、それは勢いなのね。怒りたくて怒っている訳じゃなくて、瞬間パーンとなる、弾けるというかね。それは人の気合いですよね。で、それは丸っと忘れる。で、又、普通に戻るわけでしょ。それは僕の性格にもよりますけど。そういうことがありますし、いつもにこにこ楽しくみんなでやって集中力を持つということですよね。
それはやっぱりスタッフの事を信頼してないとできないということですよね。どのパートでもリーダーがいたらチーフ、セカンド、サード、フォースっている訳ですからね、カメラポジションもそうだし、照明もそうだし、演出もそう、全部分かれてますから。リーダー達メインスタッフですね、それとの連帯意識を持つ事によって全てが統率できるかな、いい意味でね。それはありますよね。だからリーダーシップが一番問われる職業かもしれない、映画監督っていうのは。

見聞録:始まる前にスタッフを募集されると思いますが、そういう方は、あらかじめそのような考え方や気構えとかを刷り込まれた人、エキスパートを集められるのでしょうか?

奥田監督:そうですね。メインスタッフはもう最初から知ってる人達ですから。その人たちと念入りに打ち合わせをしてますから、彼等が選ぶ訳ですね。それが集まってくるという事ですね。

見聞録:スタッフを全員集合させてあらためて刷り込まなくても、すでに各ポジションの役割、責任等が、理解されていると言うことですね。

奥田監督:そうです、はいそうですね。クランクイン間近になってくると10日間ぐらいの間ですよね。クランクイン前はメインスタッフだけで、何か月も準備してますけど、大体スタッフがそろって集まって10日ぐらいからクランクインまで質問が監督迄に300個はくるんですよ、1日に。その300個を即答していくんですよ。それでクランクインすると質問が1日に100個くるんですよ。それも即決、即答ですよね。そういう判断力ですよね。

見聞録:それはどんな事、どんな質問でも答えなければならないんですか?

奥田監督:ええ、どんな質問でも答えなきゃいけない。何でも答えなきゃいけない。「どちらの色がいいですか?」「はい、こっち」とかね。「こういう写真と、こういう写真はどっち?」「あ、これ」とかね。これはこうですか?とか医学的な事もこれは、あーだからこうしろとか、そういうのはありますよね。

見聞録:間違ってる正しいは別として、すぐに答えなきゃいけないと言う部分では、ご自分で答えられた事に関して責任をきちんと持つからスタッフとの信頼関係ができると言う事でしょうか?

奥田監督:もちろん、もちろんそうです。間違っていたら、あとで修正できますから。「あ、待ってくれ。さっきこう言ったけど、違ってた、こうしたいよろしく」って。そういうことですよね。

見聞録:奥田組は、50人のスタッフの中で、信頼関係ががっちりと出来ていると言う事でしょうか?

奥田監督:そうですね、今の所1本目も2本目もそうでしたが、3本目も、もう半ば過ぎて、より一層がっちりときてますしね。このままラストまで行くんじゃないでしょうかね。

見聞録:最後に、今後監督が、目指されるもの。最終的には、ご自身がどうありたいとお考えですか?

奥田監督:目指すものはずっと監督業をやっていくわけですから、生涯ね。それにはやっぱりどんどん、こう際限のない道ですから。それと付随して、俳優業もあるわけですからね。寝てる暇というか、寝てる暇はあるけど、休んでる暇はないですよね。右手にあめ玉、左手にビールって感じじゃないですか。(笑)

インタビュー後記

今回のインタビューでは、奥田監督が、一環してテーマにしていらっしゃる「愛」についてお聞きしました。
前々作の「少女」も人の心の奥底にある「愛」を追求した作品で
純粋な男女の恋愛でした。

現代社会で欠落している、情緒感=愛 は人がもともと持って生まれたDNAなのにそれを、発見させるべき親、大人がいなくなりつつある。情報の多様性と個人主義社会が大きな原因だと監督は言われます。古く昔の親達のように、「一番が子供、家族、次が自分」ではなくなりつつあり、個人が優先され言葉では、子供の事が一番と言いながら心は子供から離れ上の空。個人の自由を求めすぎ、伝えるべき事が伝えられない。真実の情緒感を教えられていないこの子供達が、どうやって次世代の子供達に愛を伝えるのか?インタビューをしながら考えさせられました。
監督の言われる「愛」を発見する鍵を現代の親がもっていない。親のメンタルケアと学校教育が必要だと言われるように愛を知らない親に子供に愛を伝えなさい。と言っても、愛がわからないのだからどう接していいのかわからなく、パニックになってしまう。思うようにならない子供に苛立ちを感じた時、幼児虐待が始まるのだと考えさせられました。親に対するメンタルケアの必要性はかなりあるのではないのでしょうか。
「長い散歩」がそうした、大人の心に大きな衝撃を与えられることを信じて止みません。

撮影については、一番疑問に感じた、「50人以上いるスタッフへの監督の映画に対する“テーマ 理念”の落としこみをどうされているのか。」という質問に対しては、撮影に対してプロ意識を持ったエキスパートを各ポジションの責任者に任せ集める。そこには常に信頼関係があること。その為には監督自身がリーダーとして決断を全てにおいて瞬時にすることや 集中力 楽しさ等 そこにも監督の苦労がうかがえます。

目の前の奥田監督はひとつひとつの質問に素早く適切に答えてくださる切れのいいナイフのような方、でもその奥にある隠れた優しさはおそらく、監督と直接お話することができた記者の私とそして「長い散歩」をご覧になられた方がきっと感じる思いでしょう。是非、この映画からこころが震えるほどの激しい過去への後悔と未来への希望を感じて頂きたいと心より願い、インタビューを終わらせて頂きました
東濃見聞録勝股





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