「長い散歩」作品紹介



インタビュー[聞き手:見聞録スタッフ]

思いがけず奥田監督の奥様である安藤和津さんにインタビューさせて頂く事ができました。

東濃見聞録: 奥田監督が春日井の高蔵寺のご出身という事で、こちらの方にはよくいらっしゃると思いますが、この地域はいかがでしょうか。

安藤さん: この地域に来て、最初はとにかく言葉がわからなくて困りました。何を言っているのか全く聞き取れないんです。

東濃見聞録: 私もこちらの言葉が強い方なので、聞き取りにくいかもしれないですね…
安藤さん: 今はもう慣れましたし、大丈夫ですよ。私は東京生まれの東京育ち、同じ日本語を話しているのに、慣れるまで全く聞き取れなかったんです。また人の垣根を超えて話しをされるおばさん達には、戸惑いました。知らない人のはずだけど、あれ知り合いだったけ?誰だったけ??思い出さなきゃ…とちょっと焦ってしまいます。

東濃見聞録: そうですね、親しみがあるというか、この地域のいい部分でもあります。街はどのようにご覧になりましたか。

安藤さん: 今、しみじみ思うのは、よき日本の情緒がなくなってきている、全国どこでもブランド店が並び、東京も地域も違いがわからなくなってきているように感じます。先日、郡上へ撮影に行ってきたんですが、町の中の階段に何分の1と目盛りが付けてあるんです。子供が階段を登りながら算数の勉強ができるようになっているんですね、大人が子供にわかるようにつけてあげたものなんでしょう、こんなところで育った子供はどんな大人になっているんだろう、きっといい子になっているんだろうなと思いました。多治見は家並みが残っています、独特です。都会のマンションやアパートにはない”匂い”がある、暮らしの匂いですね、夕食の匂いだとか…。人間の暮らしがあるんですね。

東濃見聞録: 東濃の人は安藤さんにはどんな風に映られるのでしょうか。

安藤さん: 特徴として感じたのは、斜めに人を見る。本当は大好きな事なのに否定から話が始まる。「ドラゴンズどうですか?」と聞くと、“あかんわぁ〜”ときます。ドラゴンズを嫌いなのかな?という印象を私は持つのですが、話が進むうち大ファンだという事がわかってきます。東京では違います。褒めれば「そう?ありがとう」と喜びます。

東濃見聞録: そう言われますとそれが普通だと思っていました。ここにいると気づかないことですね…
さて奥田監督についてお聞きしたいのですが、監督は家でもやはり“奥田瑛二”さんでしょうか。

安藤さん:家が好きな人ですよ。そして厳しいです!何でも出来てしまう人だから。エビチリソース事件があったんですよ。私が作ったエビチリなんですが、私自身、料理とっても上手なんですよ!!このエビチリも美味しくできているんですが、なぜか奥田さんは文句をつけてくる。私が怒って“それじゃあ自分で作ったら!!”と部屋にこもってしまったら、その後テーブルをひっくり返して怒ってしまい、それから一ヶ月くらい口をききませんでした。普段も味が気に入らないと何も言わず、自分で味付けし直しています。また我が家では買ってきたものは一切食べません梅干し、佃煮も全部作ります。日常の食事は私が作っていますが、奥田さんもうどんは手打ちで作りますし、他にも奥田さんの作るメニューは別にまた決まっています。で、今度私達にレストランの依頼がきました。私達が作るわけではなくコックさんにお任せするんですが、私達がレシピを作りプロデュースするんです。

東濃見聞録: ご夫婦で素敵ですね。お子さんの子育てについては、どのようなお考えをお持ちだったんですか。

安藤さん:私たち夫婦は子育てについては同じ考えでした。ゲームはさせず、そのかわり画用紙に色鉛筆を持ってきて、みんなで食べ終わった魚の骨を描いたり、子供の友達も一緒に塩にぎりだけを持って山へ出掛け子育てをしました。子供の感性を大切にしました。奥田さんは子供が好きですね、父として優しい人で、人を育てるのがうまいです。監督はそんな事は伝わらなくていいと思っていると思いますが…今、映画を作っているところを見ていても子役さんや、エキストラさんへの演技指導が的確で、すぐ演技が生きてきます。この映画に娘の一人が助監督として、もう一人の娘も手伝いをしていますが、監督としての父を見て尊敬したと言っていますね。家で激しい父が、あれだけ感情を出さず、普段なら怒って言っている事を笑って言っている。そんな姿を見て、家でもう少し家族が受け止めてあげようと3人で話しました。

東濃見聞録: 奥田監督の映画のテーマでもある『愛』についてお聞きしたいのですが。

安藤さん: 人は愛がなければ生きていけない、一人では生きていけません。また一人で担って作っていくものではないんです。それは親子の愛であったり、傘をさしかけてあげたいという思いであったり様々です。また子供達には大人が愛を教えていかなければなりません。私達家族は最初からずっと私の母と暮らしています。母は今は要介護状態で、在宅介護をしているんですが在宅はお金もかかりますし、とにかく大変です。奥田さんは自分の親よりも私の母と暮らしの方がずっと長くなりました。母が元気な頃、奥田さんも母も強くて似ている為、よくぶつかりあっていたんですが、今では裸の母のお尻を抱えておんぶしてくれるんですよ。この時、本当の親子になったんだなあって思いました。愛です。実の親子でなくても愛はあるわけです…

東濃見聞録: しかしこの頃では奥田さんの今回の映画の中にもふれておられるように、今は実の親子でも虐待があり、本当の愛を知らない子供もいるように思います…

安藤さん: そうですね、愛を子供に教えられない大人が増えていますね。愛を見つけたいというのが人であり、愛の手応えがないから人はさまようのでしょうね。

東濃見聞録: 話は変わりますが、安藤さんが東濃で行きたいところはどこでしょうか。

安藤さん: 私自身は今は充実していますが、とても忙しく一日4時間程度の睡眠しか取れていません。この撮影期間中も東京と多治見を行ったり来たりで、東京で仕事をしてそれから多治見に来て、滞在しているマンションの掃除に洗濯をこなします。乾燥機がないからパンパンと手ではたいて全部干しています。とにかく時間ができたら、まずは一人でゆっくりできる時間が欲しいですね。何にも振り回されず一人で過ごしてみたいです。多治見ではほとんどロケ弁で、外食はうどん屋さんとsanda屋さんへ行っただけなんです。

東濃見聞録: そうだったんですか、時間があったらご案内したい所が沢山あります。撮影ももう数日となってしまいましたね。奥田監督は絵を描かれますが、将来陶芸は計画の中に入っていますか。

安藤さん: 陶芸は以前からやっていますよ。ノリタケとかでですけれど。

東濃見聞録: 多治見ではいかがでしょうか。一日コースの陶芸場もあるんですよ。

安藤さん: 今はとにかく時間がないですが、そうですね、一度こちらでもやってみたいと思っています。

東濃見聞録: その時はご案内させて下さいね。今日は突然のインタビューをお受けいただいて、ありがとうございました。これをきっかけに是非また東濃へいらして下さいね。お待ちしています。


インタビュー後記

笠原公民館での撮影に同行されていた安藤さんに、インタビューを申し込みをしたところ快くお受け頂き、突撃インタビューとなりました。
お話をお伺いして、安藤さんがメディア等であれほどご活躍され多忙であるにもかかわらず、子育て・食生活の管理・介護までもご自身でなされてきた上、さらに今回のように奥田さんの映画撮影にも同行しサポートもされている事を知りました。美しくスマートな安藤さんのどこからそのパワーが生み出されているのでしょうか…何事に対しても真摯に立ち向かわれる安藤さんのその姿に、同じ女性として憧れの気持ちを持ちました。

また安藤さんの目に映られた多治見の街や人の印象を伺って、地域の人々は親しみがあり、どんな人も受け入れる幅広さがあること、そして街の中心部には暖かな情緒のある町並みが残っていること等々、日常に埋もれて私が気づかなかったり忘れがちだったりしている大切なものを、思い出させて頂いたような気がします。私達は新しいものを作って、つい古い物を取り壊そうとしがちですが、奥田さんがこの地を映画のメインロケ地に選ばれたことでも感じられるように、街に数多く残っている古き良き情緒を、ここに住む私達が手を添え守っていく事が、逆にこれからの街の元気・活性につながるのではないでしょうか。これは東濃見聞録のこれからの課題にもなります。

そして安藤さんの愛に対しての純粋で深いその視線は、決してご家族にだけ注がれているわけではないのですが、奥田さんの話をされている時の安藤さんには深い愛が感じられ、ご夫婦の年輪を思い胸が熱くなりました。今こうしてご夫婦それぞれがご活躍されている背景は、やはり『愛』『居場所』があるからなのでしょう。

今回突然のインタビューであったにも関わらず、安藤さんは熱心に爽やかに対応して下さいました。本当にありがとうございました。

上記は、安藤さんがロケ現場となった笠原公民館に送られたタイルに描かれたサインです。映画の登場する天使の羽をつけた女の子が描かれたとても暖かなサインです。
東濃見聞録勝股





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